Project8 オープン・D・チューニング
8.HAIL! HAIL! ROCK'N'ROLL
「チャックベリー、ヘイル・ヘイル・ロックンロール」は新宿のシアターアプルで観て、大笑いした記憶がある。
最高だった。ロックのすごさ、面白さ、高揚感といったものがすべて詰まっている。
キング・オブ・ロックンロールのチャック・ベリーが故郷のセントルイスで60才(!!)のバースデーコンサートを開くことになった。
コンサートに出演するエリック・クラプトら彼を敬愛するミュージシャンが、次々とリハーサルにやってくる。
このコンサートを軸としたドキュメンタリーだが、ブルース・スプリングスティーンら大物ミュージシャンや周囲の人々の証言が挿入される。
監督はテイラー・ハックフォードで、「愛と青春の旅立ち」「カリブの熱い夜」「ディアボロス・悪魔の扉」といった娯楽作品を80年代以降多数撮っている。
この娯楽作品というのがポイントで、本質をわかりやすく、面白い構成で伝えるのが大変うまい。
彼がロックにどの程度思い入れがあるかわからないが、チャック・ベリーのクレイジーなロック的部分が的確に表現されている。
これが、作家性の強い監督だと、作品の中に”自分”を入れたがるんですな。この場合それはダメ。
この作品の真の主役はローリング・ストーンズのギターリスト、キース・リチャードだ。
音楽的にチャック・ベリーに強い影響を受けていたキースは、チャックのコンサートを見る度に不満を感じていた。
チャック・ベリーはコンサートのバック・バンドの演奏やショーの構成にまったく無頓着。
バック・バンドは、公演する地元のプロモーターが用意したローカル・バンドである。
チャックは、出演直前に公演会場に一人でやってきて、リハーサルどころか曲目の打ち合わせすらやらずにいきなりリフを弾き始める。
バンドのメンバーは大慌てで、まず曲目を推測し、次にキーを探り当て、必死について行く。
このあたりのことは、デビュー当時チャックのバックをやった経験があるブルース・スプリングスティーンが少年のように目を輝かして証言している。
彼が演奏する曲目を尋ねたらチャックは「チャック・ベリーのヒット曲だ」と答えたそうだ。
僕も苦い思い出がある。大学生の時に来日したチャック・ベリーのコンサートに行った。
そのとき、あこがれていた他校の女子大生を誘った。チャックの音楽で盛り上がろうと思ったのだ。
チャックはベースは連れてきたが、ドラムとキーボードは日本人。
演奏はしょぼかった。構成も単純に曲を並べただけ。
だんだん盛り下がってゆき、彼女は早々と帰って行ってしまいました。
チャック・ベリーは黒人であるがゆえに、デビュー当時いろいろ苦労し、問題を起こして刑務所にも入っている。
そういった経験が、彼を人間嫌いにし、単独行動に走らせるといった証言もあった。
いずれにしても、キース・リチャードはチャック・ベリーのコンサートが、チャックの魅力を十分に伝えていないと考えていたのだ。
そこで、キースはこのチャックの60才バースデーコンサートの音楽監督に名乗りをあげた。
それが、キースの苦難の始まりだった。本人も予想していたけどね。
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