Project8 オープン・D・チューニング

10.ロック空間

6月は日本中がワールドカップに熱狂し、テレビ放送はどのカードも驚異的な視聴率を記録した。
そのため、巨人戦などの裏番組は軒並み視聴率が低下した。
そんな中で「渡る世間は鬼ばかり」の視聴率は驚くべきことに20%を越えた高い数字をキープした。
裏でかなりいいカードをが放送されていたが、そんな揺さぶりに微動だにしない。ドイツのゴールキーパー、カーンのようである。
橋田寿賀子恐るべし!

橋田ドラマのパワーはまさにロック的だ。
人気を取りやすい暴力シーンとラブシーンを一切使わない。キムタクのようなわかりやすいスターが出るわけではない。
世の中の新しい事柄も安直に取り入れるのではなく、橋田ワールドの言葉に翻訳され、日常生活的説得力がある形になる。
そして、ジョン・コルトレーンのアドリブのように大量のセリフで空間を埋め尽くし視聴者を支配する。

凄いのは、流行に無関係な独自な作り方にもかかわらず、どのドラマも非常に人気が高いことだ。
その人気は規格を越え、ワールドワイドである。
「おしん」の最高視聴率は60%を越え、アジア各国でも驚異的人気を得た。
ハリウッド的作風と無関係なところで、これほどアジア全体に広まったのは「おしん」と「ドラえモン」ぐらいではないか?
なんとなく、アメリカに勝ったようで小気味よい。

橋田ドラマは橋田寿賀子個人のパワーに負うところが大である。
彼女が書くと一瞬のうちに橋田ワールド、橋田空間が構築されるのである。
これは俳優の場合も起こりうる。

たとえば、市原悦子だ。
彼女が出演するだけで、もうそれは市原悦子ドラマに分類されてしまう。
演じるのが、家政婦であろうが、おばさんの刑事であろうが、バスガイドであろうが、同じテンションで物語は進行し、市原ワールドが形成される。
仮に女子高校生を演じてもやっぱり市原悦子ドラマになる気がする。ちょっと見てみたい。

さて、いまロック映画を作るにあたって考えているのが、存在するだけでロック空間を作り上げてしまう役者を探すことだ。
その男の行くところはロック空間に変貌する。詳しくは次回。

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