Project10 トライ・トゥ・リメンバー

4.なぜ、キャサリン?

このプロットを書いたとき、辰男を時流に乗れない内向的な男として描いた。
パソコンはその象徴だったのだが、今(2002年)読むと普通に回りにいそうな男のように感じる。
それに今なら、キャサリンは日本人に置き換えても成立するが、当時はアメリカ人でなければリアリティーが出せなかった。
なぜ?

理由 景気が良くてみんな浮かれていた。
バブルという言葉は景気が悪化しはじめてからよく使われ出した言葉で、いいときは「金あまり現象」と言っていた。
すごですねー。金があまっている!!みんな将来に希望を持ち、あまった金を使いたくてしょうがなかった。
だから、辰男のようなキャラクターが異質だったのだが、今は不景気でバカ騒ぎもあまり見かけなくなった。
実はこの次期に日本の映画界は大きく変化している。
製作面では、新人監督や別分野の人(北野武など)に映画を撮らせるようになり、
興行面では、ミニシアターでの単館興行が成功を収めるようになった。
これも、あまった金が映画に回っていたためであり、封建的・閉鎖的だった映画界を変えるきっかけになった。

理由 パソコンを使うのはかっこ悪かった。
パソコンが爆発的に家庭に普及してきたのは90年代半ばからで、それまではパソコンを持ってるとマニアかおたく扱いされた。
いわば”文科系人間文化”の頂点みたいな時代で、軽くて、軟派で、スマートに仕事をこなし、明るく派手に遊ぶ。
そういうのがかっこ良くて、ちまちまとパソコンなんぞをいじっているのはかっこ悪い、といった空気が流れていた。
ここ数年、そうした文科系エリートの虚構性が行政や企業の不祥事から次々と明らかになっているのだが、
困ったことに、いまだに当時の空気を引きずったまま仕事をする人が多いのだ。もう、お金はあまっていないのに。
当時パソコンを家で使い込んでいた辰男はかなり変な人だったのだが、今では珍しくない。

理由 女性のプライドが高かった。
こういうプロットを書くと、お前の体験だろうと思われがちなので、弁護?しとくと、
・僕は結婚したことはない。
・僕はパソコンを買ったのは遅い。
・僕は留学したことがない。渡航経験も乏しい。
・残業せずに帰れるような余裕のある生活をしたことがない。
ただ、辰男がキャサリンを選んだ理由の裏側に当時の女性に対するうんざりした気分は盛り込んでいる。
ともかく、プライドが高くて、わがままで、一緒にいて安らぎが得られなかった。
男が好景気に浮かれていたのと同様、女も舞い上がっていた。
いまでも時々そういう女性に出くわすが、その比率がぐっと高かった。
だからこの話にリアリティを持たそうと思ったら、キャサリンのような性格の女性はアメリカ人でなければならなかったのだ。

このプロットは、ちょっと尻切れとんぼの感がある。そこで...。

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