Project10 トライ・トゥ・リメンバー

2.プロット「トライ・トゥ・リメンバー」前編

 キャサリン(25)は、帰宅する夫の辰男(28)を迎えるために部屋の模様替えをしていた。
ダイニングキッチンをテーブルを並べて区切りカウンターのようにした。
その上にコーヒーのポットを置き、ラジカセからFENを流して気分を盛り上げた。
キャサリンはアメリカのコーヒーショップを再現しているのだ。
ボール紙でメニューを作り、エプロンをつけてウエイトレスのかっこうをした。
「辰男ヨロコブカシラ?」

***

 キャサリンが辰男と結婚してまだ1年しかたっていない。けれども辰男は話をしてくれなくなった。
 会社から帰るとすぐに自分の部屋に籠もってしまう。そしてパソコンでゲームや通信をやっている。
食事すら中で一人で食べる。
 キャサリンには辰男がどうしてそんなことをするのかわからなかった。
夫婦とはなんでも話し合い、一緒に生活を作ってゆくパートナーだと思っていた。

 ハイスクールで仲の良かったマギーはカレッジに進み、そこで知り合ったジムと結婚した。
二人とも仕事を持ちすれ違いの多い生活だが、週に一度は夫婦の時間を作り、外で食事をし映画を見ている。
 それにくらべると、キャサリンは仕事をしていないし(辰男が許さないのだ)、
辰男もあまり残業をしないでまっすぐ家に帰ってくる。
だから時間はたくさんあるのに、その時間を二人で共有していなかった。

 もちろんキャサリンは自分に目を向けさせようといろいろやってみた。
「ポリスアカデミー」のビデオをレンタルし辰男を誘ってみた。
「辰男、コノビデオ、オモシロイヨ」
 キャサリンが辰男の部屋に入ってゆくと大声で追い返された。
「うるさい、邪魔するな」
 しかたなくキャサリンは一人でビデオを見た。面白いはずのギャグにも笑うことができなかった。

 先週の日曜日。朝からパソコンをいじっていた辰男が外出した。フロッピーディスクを買いにいったらしい。
キャサリンが辰男の部屋に入るとパソコンのスイッチが入ったままだった。
キャサリンは思った。
− 辰男にパソコンを教えてもらおう。得意なことなら、熱心に話してくれるわ −
マニュアルが英文だったので、辰男が戻るまでパソコンの横で読んでいた。
 戻ってきた辰男は、キャサリンを突き飛ばした。
「さわるな。出てけ」
 キャサリンは辰男に言った。
「辰男、ヤサシカッタ、アナタハ、ドコヘイッタノ」
「・・・・・」
「ドウシテ、ワタシトハナサナイ。ドウシテ、ワタシヲサケル。WHY?」
「・・・・・」
「WHO IS YOUR WIFE? WHO IS YOUR PARTNER?」
「・・・・・」
「IT’S ME.」
「ホワイ?イッツミー」
 辰男はキャサリンの口調をまねるとケラケラと笑った。

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