Project8 オープン・D・チューニング
2.魂の叫び
クリントン大統領が来日したときに、総理大臣主催の歓迎午餐会で渡辺貞夫が演奏した。
そのときナベサダは、さりげなくステージにサックスを立て掛けておき、「Fのブルースをやります」と言ってから演奏を始めたそうだ。
これはどういうことかと言うと、サックスプレイヤーであるクリントン大統領をステージに誘っていたのだ。
「Fのブルース」は、ジャズ・ミュージシャンが打ち合わせなしの演奏(ジャムセッション)をするときの定番である。
これは、曲名ではなくキーと曲の形式のことで、Fキー(ヘ長調)のブルース形式の曲という意味だ。
スイング時代からモダンまでジャズで演奏される非常に多くの曲がブルース形式である。
「イン・ザ・ムード」「ナウ・ザ・タイム」「Cジャムブルース」「ルート66」などいくらでもある。
だから、ジャズ・ミュージシャンはブルース形式の演奏さえ出来れば、レパートリーがグッと広がるわけだ。
※ちなみに日本の歌謡曲のブルース(「別れのブルース」「伊勢崎町ブルース」など)はこの意味でのブルース形式ではない。
これはロックの時代になっても同じで、初期のロックンロールはほとんどブルース形式である、
「ロック・アラウンド・ザ・クロック」「のっぽのサリー」「ジョニー・B・グッド」「ルシール」など。
むしろ曲がブルース形式と言うより、ブルースを8ビートにリズムを変えてエレキギターで演奏したと言ったほうが近いかもしれない。
という訳で、ロック少年はブルースのコード進行さえ覚えれば、すぐにロックバンドを結成出来るのです。
後に非常に高い音楽性を発揮するザ・ビートルズも、初期にはブルース形式のロックンロールのコピーをやっていた。
これほどまでにジャズ、ロックに大きな影響を与えている「ブルース」とは、アメリカの黒人音楽で、20世紀前半に形作られた。
不遇だった黒人たちが、日々の苦しみや悲しみをダイレクトに歌い上げた魂の叫びである。
たとえば、「エンプティ・ベッド・ブルース」の歌詞はこんなんだったと思う。
今朝ひどい頭痛で目が覚めた。
今朝ひどい頭痛で目が覚めた。
私のあの人はベッドを空にして行ってしまった。
このように同じフレーズを2回繰り返したあとに結論が来る。これを12小節の定型的なコード進行に乗せて歌う。
次第にこのような形式で演奏されるようになった。
そして、音楽的に際立った特徴として、根音の減3度、減7度の音を多用することがある。
これがブルーノートである。
もうひとつの大きな特徴として、クラシックでは使われないドミナント→サブ・ドミナントというコード進行がある。
ただ、この特徴はジャズで演奏する場合は普通はツーファイブの考えに基づき消えてしまう。
ジャズの場合は、他に代理コード(裏コードなどと言う)を用いたりして洗練された感じになる。
その意味で、ロックのほうがブルースの泥臭い部分を引き継いでいたと言える。
”引き継いでいた” なぜ過去形なのか?
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