Project26 復讐のテーマ

2.少林寺

犯罪映画といえばやはりアクション映画が王道である。
いや逆か。娯楽映画の王道アクション映画ではストーリーに必ず犯罪が絡む。
時代劇や戦争映画などアクションシーンのある作品もあるが、アクション映画のイメージではない。

アクションは人を引き付けるものらしく、インディーズのアクション映画はたくさんあるし、実際に僕の回りでアクション映画を作っている人も多い。
こうした作品の出演者には数々の戦歴を誇る格闘技の達人や、日頃訓練しているアクションチーム・メンバーもいるが、そうでない人もいる。
アクション経験のない役者さんが演じても、映像の場合は撮影や編集でかっこよく見せることは可能である。
ただ本当に凄い人が出るときは、映像をあまりいじくり回さずに、その素材をそのまま活かした(記録した)ほうがいいと思う。
そして観客もそういう人が出るときは、何か凄いアクションが見られるんじゃないかと期待して観に行くのである。

本当に凄いアクション・スターといえば、まずはブルース・リーだ。
彼は映画界を変えた。だって彼の出現以降、カンフー映画という新しいジャンルが出現したもの。
それほどその登場は衝撃的だった。思わずヌンチャクを購入してしまった輩も多かったようだ。
もともと映画には芸を見せるという機能がある。ダンス、音楽、コメディーなどなど。
その映画の機能に”本物の武術”という新しい分野が加わったのだ。
そしてブルース・リーはいまだに生活の中にいる。
先般「トレビアの泉」でも「ブルース・リーの叫び声だけのカラオケがある」と話題にされた。

何か凄いものが見られるんじゃないかという期待が一番大きかったのは「少林寺」だ。
公開当時、中国の情報はまだ少なく、広い通りを人民服を着た群集が自転車走るイメージしかなかった。
毛沢東、周恩来の死後数年しかたっておらず、まだ解放改革路線が始まっていなかったためだ。
そんな未知の国が全国武術大会の優勝者を主演にしたアクション映画を製作した!!これは観たくなるでしょう。
主演していたのは若干18歳の李連杰(リー・リンチェイ)。現在ハリウッドスターとして活躍しているジェット・リーである。
アクションは人間技とは思えなかった。いうまでもなくCGなんかない時代である。合成もワイヤーも使っていないと思う。

ストーリーの中に欧米人には絶対に書けないシーンがある。
主人公の小虎が誤って犬を殺してしまう。
犬の始末に困った小虎は夜間少林寺の外に犬を運び出す。
そして、育ち盛りで空腹だったこともあり犬を焚き火で焼いて食べてしまうのである。
問題はここから。
小虎の動きに気付いた指導者・師父(シューホー)は犬の肉を食べている小虎を発見する。
僧侶は殺生は禁じられているから肉食は戒律に違反する。
おこられる!と身を縮める小虎。
師父は一応説教するのだが思い詰めた小虎の気持ちを思いやって、
「たまにはいいだろう」と許すばかりか自分も一緒に犬の肉を食べる!
そして肉のいい匂いに誘われてやってきた先輩の修行僧たちも一緒に肉を食べる!
これをほのぼのとしたいいシーンとして描いている。

原理・原則を優先させる欧米人に、宗教的の戒律破りをこれほど肯定的に描くことが理解できるだろうか?
こうしたアジア的なアバウトさは、時として大きな甘えや無責任さにつながるが、目先の暴力や対立を避けるという効用もあるのではないか?
米国も曽我ひとみさんの夫(脱走兵・ジェンキンス氏)のことをアジア的なアバウトな方法で許してもらえないかと考えてしまう。
国外追放処分とかね。

僕が作ろうと思っている犯罪映画は、アクション映画ではないある作品に影響を受けている。
その作品とは...。

つづく

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