Project23 サインはV

5.彼女たちの見るドラマ

今では全くの死語となってしまったが、「トレンディードラマ」という言葉がある。
「男女7人夏物語」ぐらいから始まり、W浅野(懐かしい!!)と岩城滉一の「抱きしめたい!」でひとつのピークに達した。
このドラマの岩城さんの役柄、笑っちゃいますよ。→ 「空間プロデューサー」、何モンじゃい。
お店をおしゃれな雰囲気にプロデュースするようなことをやる人だと思うが、今こんな肩書きはを名乗ったら石を投げられるに決まっている。
もっとも名古屋あたりだと、ありがたがる人が意外に多かったりするかも知れないが。

トレンディードラマはこんな感じで、スタイリストとかデザイナーとか編集者とか流行のカタカナ職業(この表現も古いなあ)の役柄が多い。
間違っても第一次産業、第二次産業に従事する人は出てこないし、理科系の人は変な人として差別的に描かれる。
登場人物だけでなく、住まいや生活空間も垢抜けていなければならない。
だから一人暮しのOLの部屋が、夜のバイトでもしない限り家賃を払えないほどやたらと広くて豪華だったりした。
音楽も重要ですね。主題歌は必ずタイアップで”トレンディーな”Jポップのアーチストを使っていた。

トレンディードラマに若い女性が熱狂し、番組が大成功を収めると何が起こったか?
テレビドラマがすべてトレンディードラマになってしまったのです。
ルックスのいい俳優のキャスティングを優先させ、若い女性層をターゲットにしたシナリオを用意する。これがドラマ作りの基本になった。
時代劇は駆逐され、おとうさんの見る現代劇は藤田まことの人情刑事ぐらいになってしまった。
失われた90年代に世情が荒れ、ドキュメンタリー手法(電波少年など)がもてはやされても、トレンディーテイストのドラマは根強く人気を保っていた。
ただ、さすがにこの手法もそろそろ限界にきたように感じる。このところのドラマ視聴率の惨状にもそれが表れている。

トレンディードラマが登場する前は、そういった若い女性層をターゲットにしたドラマは無かったのか?
昔からドラマ好きは女性と決まっているし、女性向ドラマも無いことはないのだが、トレンディードラマ以降の感性とは明らかに違う。
作り手が"等身大の共感"や"お気楽感"や"自分よりちょっと魅力的な生活"みたいな部分を出していないからだろう。
むしろ、そういった感性を「女・子供(おんな・こども)」のものとして、一段低く見ていたような気がする。
30分の子供番組ではそういった差別的な部分はもとよりないため(だってすでに子供向けだし)、OLが主人公の場合が結構あった。
「サインはV」以外にも、ボウリング物「美しきチャレンジャー」の主人公はOLだし、スチュワーデス物「アテンション・プリーズ」もOLの物語と言ってよいだろう。

「サインはV」の出演者たちに、当時の若い女性層は等身大の共感を感じていた。
このプロジェクトは、そう考えて閃いたのである。

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