Project11 プール男

2.プロット「プール男」

 プールの時間になった。
 みんな水着にきがえはじめたのに、洋一は席にすわったままだ。
 担任の西田先生が洋一のところにきた。
「洋一君、きょうはプールに入るわね」
 洋一はだまっている。
「きょうの授業はいつもとちがうのよ。
 この小学校の卒業生で水球の日本代表選手のかたがいらっしゃるの。
 おもしろいわよ」 
 洋一は下をむいて、やっぱりなにもいわない。
「どうしていやなの」
「プール男がいるんだよ」
 洋一はプールのなかにプール男がいるのを知っていた。
 冬の間は水草でみどり色になったプールのいちばん深いところでじっとしているだけだったが、
夏になって急に元気になってきた。
 プールそうじのとき、上級生が排水口に足を吸いこまれておぼれそうになったのは、
プール男がひっぱっていたのだし、
授業中に洋子ちゃんが武君とぶつかって水をたくさん飲んだのも、
プール男がじゃましたからだ。
 だけど、西田先生には見えないらしい。
「洋一君、プール男なんかいないのよ」
「いるよ、ぜったいいるんだよ」

 洋一は、けっきょく体育の授業を休み、プールサイドで見学していた。
 きょうは水球の選手が来るので、とくべつに二組といっしょに授業をすることになった。
 やってきた水球の選手はびっくりするくらい大きく、日やけして色が黒かった。
 それにおとななのに水泳帽をかぶっていた。
「それでは最初にいろいろな泳ぎかたを見せてもらいます」
 西田先生がそういうと水球の選手はプールのなかにとびこんだ。
 ザブーン。
 すごい!とびこんだだけで、プールのはんぶんくらいすすんでしまった。
それから、2,3回水をかいただけでもう25mだ。
 平泳ぎ、クロール、背泳ぎ、バタフライ。
 水球の選手はいろいろな泳ぎかたで泳いだ。
 こどもたちにフォームがよくわかるように、ゆっくりおよぐのだけれども、
すぐにプールのはじまでいってしまう。
 こどもたちは楽しそうに拍手した。
「つぎは立ち泳ぎです」
 西田先生が言った。
 わはは。あれ、へんだぞ。
 こどもたちは水球の選手を見ておおさわぎになった。
 だって、両手を水の外に出したまま泳ぐんだもの。
 それに、西田先生がプールサイドからなげたボールを泳いだままうけとって、またなげかえした。
 西田先生もなんだか楽しそうにしていた。

 プールは自由時間になり、こどもたちがはしゃぎながら泳いでいる。
 洋一はプール男があちこちでいたずらしているのがわかった。
 あっ、明君のビート版をひっくりかえした。
 明君はビート版から手をすべらして水のなかへ。
 まわりのこどもがそれを見てわらっている。
 みんなプール男が平気なのかな。
「君は、泳がないのかい」
 横を見ると水球の選手がいた。
「プール男がいるんだよ」
「ああ、プール男か」
「おじさんも知っているの」
 洋一はすこしびっくりした。だれに話してもプール男のことを知らなかったのに...。
「知ってるよ。それに仲がいいんだ」
「えっ!」
「さっき僕がプールから手を出して泳いだだろう。
 あれはプール男が下から持ち上げてくれていたんだよ」
 洋一はほんとうにびっくりして、水球の選手の話しを聞いていた。
「君もプール男と話してみれば、プールにはいるのがこわくなくなるよ」
「どうするの」
「電話をするのさ。ちょっと待ってて」
 水球の選手は更衣室に行って電話番号を書いた紙を持ってきた。
「夜の8時にここに電話するとプール男につながるよ」
 洋一は紙を受け取った。
「これはひみつだから誰にも言っちゃだめだよ」
 水球の選手が言った。

 夜の8時。洋一は電話をしてみた。
 するとほんとうにプール男の声が聞こえてきた。
「洋一君、プール男だ。私になにか用かな」
 思ったよりもやさしい声だった。
「録音するから、君の言いたいことを話してくれ。
 そしてあしたの夜8時にもう一度電話をして欲しい。では、さようなら」
 プール男が話し終わるとピーっという音がした。
 それから電話の向こうは静かになった。
 洋一はプール男に質問した。
「どうしてわるいことばかりするの」
 電話からはなにも聞こえてこない。
 洋一は電話をきった。
 あしたまたかけてみよう。

 次の日の夜8時。洋一はプール男と話すために電話の前にきた。
 するととつぜんベルがなりはじめた。
 洋一は電話にでた。
 きのうとおなじ声が聞こえてきた。
「プール男だ」

 またプールの時間になった。
 他のこどもたちにまじって、洋一が楽しそうに泳いでいる。西田先生もうれしそうだ。
 洋一がプールから出てタオルのところへ行くと、校庭から水球の選手が見ていた。
「やあ、もうプールに入るようになったのかい」
「うん、プール男と話したんだ。
 そしたら、プール男がわるいことをするのは、こどもがはしゃぎすぎたときなんだよ。
 だから、ちゃんとしていればへいきなんだよ」
「そうか、じゃあだいじょうぶだね」
「うん。でもプール男はどこかへ行っちゃったみたいなんだ。
 電話してもでないし、プールにもいないよ」
「プール男はぼくたちとアメリカに行くんだ。試合のためにあした出発するんだよ」
「なんだ、そうか。おじさんもがんばってね」
「プール男がついているからだいじょうぶさ」
 水球の選手は帰っていった。
 洋一はなんとなくプール男に声がにていると思った。

おわり




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