Project1 おばあちゃんのレコード
3.電気館の前で
大正時代の浅草は大衆文化の中心だった。
浅草十二階(凌雲閣、関東大震災で崩壊)が空高くそびえ立ち、浅草オペラをはじめとする様々な興行が人気を博した。
電気館は日本最初の活動写真(映画)常設劇場として知られる、浅草の象徴的興行施設である。
娘時代のおばあちゃんは、まさにその大正時代の電気館で琵琶を弾いていたのだ。
母を生む前の話しであるが、母の記憶の中にも電気館との関わりは残っている。
母は子供の頃、おばあちゃんに連れられて大阪から上京した。
浅草に行き電気館の前を通りかかると、館の前に席を設け座っている男がいた。
おばあちゃんはその男と親しげに話し始めた。男は浅草電気館の持ち主であったのだ。
琵琶というと今ではすっかり聴く人も少なくなり、僕自身もあまり詳しくない。
ただ、いつだったかテレビを見ていたら興味深い調査が紹介されていた。
昭和の初めに好きな音楽のジャンルをアンケートした結果である。
なんと、琵琶が1位であった。
最高に人気のあった劇場で、最高に人気のあった音楽を演奏する。
そのうえレコードまで出してそれも評判になる。
すごくかっこい!!
今で言えば、メジャーデビューして武道館でライブをやった女性ボーカルみたいなものじゃない!
それではなぜ、おばあちゃんは何も言わなかったのだろう?
そして、おばあちゃんの演奏したレコードは何処へいってしまったのだろう?
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