Project1 おばあちゃんのレコード

1.遠い日の記憶

あなたが、シナリオライターだったとしたら、おばあさんと幼い孫をどのように描写しますか?
ニコニコと笑顔で孫と接するやさしいおばあさん。
背中を曲げて昔の思い出を楽しげに語るおばあさん。
そういった、イメージになるのが普通ではないだろうか?

僕の母方の祖母(先代政所屋伊兵衛の孫)は、僕が小学校2年生の時に死んだ。72才。当時としては平均である。
幼い時の記憶の中に、おばあちゃんと楽しく過ごした記憶が残っていない。
おばあちゃんはとても心配性で、あまり笑顔を見せなかった。
家の裏の一画(通称「裏山」)で遊んでいると、心配そうに姿を見せた。
そして寡黙だった。若いときの話しを聞いたことはない。
七十近くなっても座るときは背筋を伸ばして姿勢がよかった。

晩年は寝たきりになった。
自宅で母が介護をしていたが最後は入院した。おばあちゃんは入院が嫌いだった。
ある日、母と姉と3人で入院先に会いに行った。
動脈硬化のため言葉が不自由になっていたおばあちゃんは、すがるように必死に視線を向けて来た。
母は泣いていた。姉も泣いていた。僕は泣かなかった。

おばあちゃんが死んだあとの小学生時代、僕はいろいろなものに興味を持った。
そして、6年生の終わり頃、ある衝撃的な出会いから、急速に音楽に引かれていった。

その頃だと思う。僕は意外な事実を知らされた。
「おばあちゃんは、若い頃レコードを出したことがあるのよ」

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