Project12 やり投げ警備員

7.敗北を前提とした戦い

ビッグコミックの原作賞に応募すべくシナリオを書き始めたが、書いている最中からまず入選しないだろうと思っていた。
当時エンターテーメント指向の作品が入選しにくかったという事情もあるが、それ以上に自分の力不足がわかっていたからだ。
技術不足もあったが、”やる気”を作れないのが最大の原因だった。
アントニオ猪木の「元気があれば何でもできる!」という言葉はまさに人生の真実を表している。
僕にとっていかに”やる気”を作るかが、最大のテーマなのだ。
当時は公私共にいっぱいいっぱい。とても、シナリオを書ける状態ではなかった。

それでも作品の形にして応募した。結果は当然のように落選した。
なぜ、負けるとわかっている戦いに挑み、多くの時間を費やしたかと言えば、そうしなければ、新しい世界に入ってゆけないからだ。
かっこよく言えば「男は負けるとわかっていても戦わなければならないときがある」
合理的に言えば「シナリオを最後まで書き上げること、応募してその反応を見ることで、情報が蓄積される」
その効果は、すぐに現れた。

次のビッグコミックの原作賞には別の作品を出し一次選考を通過した。応募数は600〜700本で、そのうちの16本に残ったのだからまずまずだ。
あいかわらず”やる気”は作れなかったが、そういう状態でも暗い話なら書けるものなので、めちゃくちゃ暗い話を書いた。
どんな話かと言うと...。
子供のころ交通事故で家族をなくした金持ちの青年がパラレルワールドへ迷い込む。
その世界では金さえあれば、殺人などを除きほとんどのことが合法的に可能だった。
不思議なことにキャッシュカードだけは現実の世界とつながっていたため青年は金を手にすることができた。
そして、金の力によって理想の家族を買い集めた。力強い父親、やさしい母親、可愛らしい妹。
1年が過ぎ、家族の絆が深まったと思い始めた頃、青年は偶然家族のそれぞれが本当の家族と会っているのを目撃してしまう。
そして...。

いやですねー、こういう話。でも、こういうほうが作品にしやすいのですよ。エンターテーメントのほうがはるかに難しい。
でも、何にせよ一次選考通過はありがたかった。名前も覚えられただろうし、次は入選しやすくなるかもしれない。
「やり投げ警備員」は、とりあえず入選し実績と人脈を作ってから売り込んでみよう。
よし、次のビッグコミック原作賞はやるぞ!!必ず入選だ!!おっ”やる気”も出てきたぞ!!

そして、次はなかった。
ビッグコミックの原作賞はなくなってしまったのだ。

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